北欧について

 

◇北欧のイメージ(私の雑感)

学生時代、世の中は自分の目に見えている通りに存在していて、しかもモノゴトは当然そこにあるものとして存在していると映っていた。ところがこの年齢になるとどうもそういうものではないらしいということが、だんだん分かってくる。YHを例にとるなら、YHというものは昔からあって、旅を志向する若者なら当然誰もが利用するものだと漠然と思っていたが、今から見れば日本におけるYH運動はあの時点では生まれて2,30年程度のものであり、しかもあの頃がピークなのであった。

世代を超えて感性を共有できないという点でジェネレーションギャップというものをつくづく感じる。中学生の夏、青森駅から上野に向かう夜行列車で旅の青年と乗り合わせたことがある。青年がザックからいくつもトマトを取り出してそれを中学生である私にいくつか分けてくれたことから会話が始まって、彼が下車する仙台駅に着くまで旅の話などいろいろ聞かせてくれた。彼は北海道旅行からの帰りなのであった。私の時代でさえそれは死語に近いものがあったが、私は幸運なことに「カニ族」(wikipediaに分かりやすく説明されています)の最後の尻尾に遭遇する体験をしたのであった。当時の私にはまぶしい存在に思われたこの青年は、年齢としては10才と離れてはいなかったはずで、今なら数年の歳の差などあって無いようなものだが、感性が形成されるこの年代ではこの差は決定的である。

私が学生であったとき、ビートルズもウッドストックも学生運動も過去のものであった。旅を愛するものとしてヒッピームーヴメントの束縛されない精神には憧れるものがあったが、それも既に昔話なのであった。その遅れて来た私が感覚的にどうも納得いかないのが、スウェーデンなどの北欧がヒッピー達に理想郷と見なされていたことである。インドに傾倒したビートルズやユーラシア大陸を歩いた沢木耕太郎などのアジア派が主流だったとは思うが、一方、五木寛之の小説に出てくる若者たちのような流れもあったらしい。分からないというのは、アジアなら非組織的であるし、非西欧文明的であるしで自分を解放する場として納得がいくが、北欧というのは高福祉国家で全てがきちんとしていて物質的に豊かで、しかしその反面、満たされた管理社会の中で生きる目的を失って行き着く先はアル中か・・・、といったイメージがあるからである。

バルセロナ発マドリッド行きの夜行列車で、Tさんという30代半ばと思われる日本人と乗り合わせたことがある。Tさんは学生であった私より十歳以上年長だった筈である。ワインを飲んでいる勢いで翌日の夜、Tさんと奥さんと二人暮しのアパートに泊めて頂けることになった。その夜、奥さんのカルメンさんを交えアルバムを見ながら昔話になったのだが、12年前に日本を出てきたTさんとスペイン人であるカルメンさんはまさにスウェーデンで知り合い、結婚し、この10年はスペインで暮らしているという。アルバムの中にはヨーロッパ各地を旅する、私より一世代上の若い二人の笑顔があった。当時でもドミトリーに泊まればギターを抱えて旅する長髪のバックパッカーは少なからずいて、ヒッピー文化の名残をとどめてはいたのだが、私は何かしら決定的な違和感を持って北欧の美しい風景の中の若い二人を眺めていたのでありました。

 

夏のストックホルム

 

◇北欧のイメージ(雑感その2)

私の僅かな体験によると、北欧の若者は親切で、公共心があって、自分の意見を節度ある態度で述べ、要するにとてもきちんとしている印象を受けた。そういう若者が育つ社会が悪かろう筈が無いのだが、やはりなんというか一種の息苦しさを感じる。景色は信じられないぐらい美しいが、完璧な美しさだけに一ヶ月もいたら退屈で逃げ出してしまいたくなりそうである。

社会が管理されているということは、町で缶ビールを買おうとしたときに実感させられた。まず販売が免許制で特定の店に行かないとビールが置いていない。さらに時間による販売規制があって訪ねて言ったその店は閉まっていた。そして値段も高く、駅のカフェでようやく入手したのだが、30クローネを13と聞き間違え、私が払おうとしたら「そんなに安い訳ないだろう」と笑われた。アルコール度数についても良く見ておかないと1%やら2%のものを手にしてしまう。日記の中で「ここはアラブか」と毒づいているが、人はそういう社会を前提として暮らしているのであり、やはり私の中ではこれはヒッピー文化と結びつかないのである。

ストックホルムから夜行列車でコペンハーゲンに向かったとき、その車内の異様な雰囲気に驚いたことがある。途中の停車駅でひと騒ぎあってパトカーが駆けつける一幕があったが、そればかりでなく列車内は、大声で喚いたり、どかどかと荒々しい足音をたてたりする連中が通路をひっきりなしに行き来する。朝目が覚めてみれば、どの車両もビールの空き瓶が散乱するすさまじさで、若者や不良中年満載の列車が酒やドラッグで一晩中乱痴気騒ぎやっていた風情。公共の場で乱れるというのはヨーロッパではめったに無いことで、随分夜行列車に乗ってきたが、こんなことは後にも先にも経験しない。週末であったし、ストックホルムの連中が比較的規制の緩いデンマークに発散しにやって来たということであろうか。美しき北欧の別の一面を見てしまった気がする。

 

ナルビクに向かう列車から見るフィヨルド

外洋は正面の山の向こうであり、いかに深い入江であるか分かる

 

 

前置きが長くなってしまいましたが、以下は少しだけ旅のヒントを。

 

◇北欧について

まず、中部ヨーロッパや地中海ヨーロッパとはかなり違うヨーロッパがそこにあると思う。私などは、中世都市が大好きなので、ゴシック教会も古城も旧市街もない北欧の町にはあまり魅力を感じない。その代わり、フィヨルド、白夜、オーロラといった高緯度ならではの自然の驚異が見られるのは他の地域にないことである。

この地域は物価が高い。南欧を旅行する調子でやっていたらすごいスピードでお札が出て行ってしまいそうである。私の場合は、幸いにして国土が広いので移動は基本的に夜行列車にして宿代を浮かす、食事は大きいバゲット一本買ってこれを少しずつかじりながら旅をする、ということをやっておりました。

また、これはマニアックな趣味ですが、私は高校の地理の勉強が好きだったので、タイガとか、ラップランドとか各種氷河地形とか習い覚えた知識を実際に目の前にする楽しみがありました。例えばタイガというのは冷帯の針葉樹林帯のことですが、スカンジナビア半島を北上する列車は延々針葉樹林帯の中を進み、なるほどこれのことかかと思いました。(そのうち飽きて寝てしまいましたが)

 

◇フィヨルドについて

私はフロムのアウランフィヨルドとナルビクのフィヨルドを見ました。フロムの方は世界的に有名で、素晴らしいフィヨルド観光が出来ますが、それだけに観光ルート化された面は否めない。ナルビクに向かう列車から見るフィヨルドにも唸らされますが、こちらは何しろ遠い。ただどうせ北欧に来るならば、白夜と組み合わせられることもあるし、北極圏を目指すのも検討する価値があるのではないでしょうか。

アビスコ−ナルビク間のフィヨルド光景は上に載せたのでここではマニアックな写真を

フィヨルドの谷底を流れる細い渓流が海水部に流れ込む瞬間

どうもこういう「端っこ」が好きで、

帰ってから写真を現像したところ、往復同じ場所で写真を撮っていました

 

◇白夜について

アビスコのSTFのおばちゃんに、Midnight Sun Tour みたいなものがあるのかと尋ねたところ、アビスコのシンボル的存在であるU字型の山を指して、あの上で見ても、このSTFのロビーで見ても、midnight sunはmidnight sunだと返されてしまった。案外それが本当のところかもしれないと今は思う。実際、私はナルビクの近くの山の頂上で真夜中の太陽を体験し、それはそれで良かったが、あの冷たい太陽光のこの世のものでない不思議な感じはナルビクの町に下りてきても、宿の部屋に戻っても変らなかった。

 

白夜(ナルビク)

 

◇オーロラについて

北極圏の自然の驚異も宇宙のこととなってはヨーロッパに何の関係もないので私には興味がありません。ただオーロラ見物するのに参考になりそうなサイトがあったのでここに記録しておきます。http://www.toi.net/~ebi/aurora/

アビスコがオーロラ見物に適しているそうです。

 

 

 

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