聖夜 (その4)

 

転ばないよう注意しながら凍てついた暗い坂道を登り、ホテルベルビュウに着いた。預けてあったザックを受け取りながら、レセプションにいた男に、今夜の夜行に乗るのだが、外は寒いからここにいさせてくれ、と告げた。ぼくはロビーのいすに腰掛け、マグカップにウイスキーを注ぎ、チビリチビリと飲みながら文庫本を読み出した。ホテルのスタッフも今晩はこのレセプションの男ひとりいるだけのようで中は静まりかえっている。さきほどから泊り客らしい10名余りのやたらと賑やかなグループが、どういう訳か3、4回、部屋に戻ったり、また出て行ったりする。そのたびに騒音を撒き散らすが、彼らが出ていくと再び嘘のように静かになる。レセプションの男も退屈らしく、しかし仕草だけは忙し気な様子で、何度も立ち上がってはそこらを歩き、カーテンをおろしてみたり、椅子の位置をちょっと直してみたりする。

 

ロビーにこのホテルの古い写真があり、半世紀前の年号が付されている。レセプションの男に尋ねてみると、この建物はもっと古いもので、初めは民家として使われていたが、この写真の頃からホテルとして使われるようになったのです、と説明してくれた。大晦日だというのに彼はひとりで一晩中ここで仕事をしていなければならないのだ。アルコールが回ってきたぼくは、彼を気の毒に思い、ウイスキーどう、とすすめてみたが、いえ、結構です、と大変真面目である。

(以下「聖夜(の5)」に続く)

 

FH020014.jpgこの時期のイルミネーション

 

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