聖夜 (その2)

 

夕方になって宿に向かうことにした。行く先は決めてあった。朝、駅でもらった地図の裏にホテルリストがあり、Lから始まって、A、B、Cとランク付けされたうちのそれがCクラス唯一のホテルであったし、地図を見ると大きな公園の中にあるらしいことも珍しくて興味をひいた。地図を片手に公園に沿った道を進む。そのホテルは地図で示された場所よりもはるかに遠く、何度か人に尋ねたが、もっと先、といわれるばかりで、中には『ここから遠いし、丘の上で、この霧だから見つかるかどうか』と言う人もいた。覚悟を決めてどんどん歩いていくと、やがて看板があり、最後は公園の中に入って木立の中の坂道を登っていくと、その突き当たりが目指す宿、ホテルベルビュウであった。

 

三階建ての小さな黄色い建物で一見普通の民家のようであるが、正面の階段の脇にホテルであることを示すプレートがかかっていてすぐにそれとわかる。入ると左手にレセプションがあり、声をかけると人が出てきた。一泊9万ディナール(当時のレートで約2千円)の部屋は、2階の、今来た道に面した大きなツインルームであった。やっと外の寒さから保護された思いでベッドに横になる。温かいいい部屋にありついた満足感と夜行明けで一日中歩きまわった疲れとでそのまま寝入る。

 

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ホテルベルビュウ

(2階、バルコニーが付いているのが私の部屋)

 

 

遅い夕食を階下のレストランでとった。主菜はだ円の大きな弁当箱のような容器の中段に鱒を置き、野菜やスパイスと共に蒸し焼きにしたものであった。そのまま全部出してくれた方が有難かったが、サイドテーブルに乗せて持ってきたその容器から、女給仕が苦労しながら魚の身をより分け上品に皿に盛り付けてくれる。素材も味つけも上等で、ワインによく合った。僕の他に、外から食べに来たらしい中年の夫婦者がひと組ゆっくり食事をしていた。

 

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