ドイツについて

 

ドイツの魅力

ヨーロッパ好きであるが、アメリカは、少なくとも旅行先としてはまったく興味が無い。抽選でハワイ旅行が当たったとしても多分放棄するだろうと思うぐらいだ。白人の先進国という意味で欧米というくくり方をするが、欧と米では趣が違うのである。欧にあって米にないもの、それは歴史であり、歴史が生む風土、光景、文化である。ヨーロッパの奥の深さを思うとき、アメリカの単純さは際立つ。

(注)これは、旅行先としてとらえたときの私の感覚であるが、今般のイラク問題に対するフランスとアメリカの態度の違いにも同根のものを感じる。乱暴な言い方をすれば大人と子供の違いである。また、米国人旅行者の我が物顔の振る舞いに対し、表面的にはお金を落としてくれる客に対する笑顔を見せながらも後ろでは肩をすくめているのもヨーロッパ各地の観光地で良く見かける構図である。

 

長い歴史を持つヨーロッパであるが、その中でもヨーロッパの町を魅力的にしているのはヨーロッパ中世ではないかと思うのである。中世都市は城壁に囲まれており、一部の例外を除いて小規模である。住民は家業を持ち、城壁の内側で生活する。城壁の外は農地であるが、また、街道を通じて外の世界とつながっていて、商人も行き来すれば、いかがわしい人物も往来する。内外の結節点は、城壁にいくつか設けられた門であり、城門は朝開けられ、日が暮れれば閉ざされる。

私のイメージにはざっとこんな感じである。例えばそれはブリ167ューゲルの絵に見られる世界である。本で読むならば、一橋大学の学長を務めた阿部謹也氏の著作が読みやすい。ハーメルンに現れた男が町の人の仕打ちに腹を立て、笛を吹きながら町を歩く。すると町の子供たちがその後をついて歩き、大人たちはこれを止めることが出来ない。男は子供達を引き連れたまま城門から異界である外に出て行き再び戻ることはなかった、という伝説。阿部氏はドイツ北辺の町で、この話の元になる一体何が起きたのかを推論してゆくのだが、その過程で、中世期の町のしくみ、風習などにふれて、それがまことに興味深い。

ヨーロッパの町はこうした中世の風景を今にとどめている。そして中世都市としての性格を最も良くとどめているのがドイツの町だと思う。もちろん中世都市はドイツだけのものではない。しかし、イタリアやスペインの町は魅力的だが、多くそれは丘上都市であり、城壁の意味が薄れている。城壁は、まったくの平地に壁を立てて内外を分けるところに重要な意味があると思う。(理屈のように思われるかもしれないが、実際に城壁の上を歩いて、城壁の内外を眺めながら町を一周すると実感する。)また、イベリア半島の都市はイスラム文化の影響が濃く、それはそれで魅力的なのだが、中世都市としての性格は変ってしまっている。イギリスは町が近代化してしまっているし、フランスの町はしまりがない。で、中世を旅するならやっぱりドイツ、と私は思うのである。

 

◇ドイツの魅力(その2)

ドイツは旅行のし易い国である。街角で地図を広げていると、通りかかったお兄さんが足を止めて“May I help you ?”と声をかけてきたこと一度や二度で無い。人々が大人で、町にいてゆったりできるのである。町なかに大道芸人やミュージシャンがいて、老若男女しばらく足を止めて楽しんでいる光景をよく目にする。一人一人が分断された感のある日本の社会に較べると社会が成熟している感じがする。

 

もっとも、ドイツ人は観念的過ぎるようにも感じられる。人に対して親切なのは、当然そうであるべきだ、という観念から出ているような。YHやドミトリーでは色々な国のバックパッカーと話すことになるのだが、話題が反戦反核その他社会問題になりがちであるのは決まってドイツ人である。見解を聞いているだけならいいのだが、こちらは腑抜けの日本人であるから、君はどう思う?とか、日本ではどうなんだ?とかいきなり問われて閉口したものであった。

観念的であることは、功罪共にする。観念的過ぎるから変な方向にもベクトルがそろって、ドイツ民族至上主義とか今のネオナチのようになってしまうのだと思う。

また、以前ノルウエーのラップランドで列車故障のトラブルにあったことがある。代替輸送のバスがようやく到着した時に、老人達の荷物を手伝っていたスウェーデンの青年が私を振り返り、「見ろよ、ああやって我先に乗り込むのは皆ドイツ人だ。あいつらはいつもああだ。」むしろこちらが一般的なドイツ人のイメージだろうか。

 

観念的であることも利己的であることも、日本人が持つ性質でもあり、そういえば視線の使い方など他の国に較べてドイツにいると違和感が少ないし、落ち着ける感じもそういうところから来ているのかもしれない。早朝、町を歩くと、犬を散歩させているお姉さんやジョギングのおじさんが、“モルゲン!(お早う!)”とにっこり声をかけてくれるのはいいもので、旅の活力が湧いてくるのである。

 

◇その他旅のあれこれ

ドイツ旅行の難点は物価の高さであろうか。しかしこれも社会がしっかりしている恩恵で、やりようはある。

まず、宿泊は、安宿が見つからなければ、YHがある。(但し盗難には注意)また、ドイツ・オーストリア圏ではzimmerという単語を覚えておくとよい。イタリア語のcamereと同じで部屋の意。民宿である。

食事は、マーケットで食材を調達すればよい。特に、パンやハム、チーズ、牛乳などの乳製品が安くて美味しい。宿で食べてもいいし、公園や町なかのベンチなどで食べるのも南欧あたりと違ってそう抵抗感無い。その昔私はザックにバター(サンドイッチ作成用)を入れて歩いておりました。

 

列車は、発達していて、路線図も複雑である。後から出る列車が、先に着くということが結構あってCOOKと格闘することになる。ただ、この国のことであるから、駅員に聞けば、返事は常に明快。ドイツ国鉄は正確だとよく言われるが、私の経験では遅れることが結構あった。油断しないことである。

 

言葉は英語で大体通じる。ドイツ語で覚えさせられたのは、挨拶言葉と駅、入り口出口などの旅行用語ぐらい。

ドイツビールはドイツ旅行の楽しみである。初めは日本のビールとの違いに驚いたものでした。小ぶりの真ん中の膨らんだ樽様のジョッキがいい。私は、ビールはチェコが一番美味しいと思ったが、ドイツビールもとても美味しい。

料理は、レストランに入ることが余り無いので、ドイツで覚えた料理はシュニッツエルぐらい。(ウィンナー(ウイーン風)シュニッツエルだとプレーンなものになってしまうので、ソースが欲しい時は別の修飾語のついたものにしたほうがいいと思います)それより、ドイツの食べ物(食べ方)で印象に残っているのは、大きな駅の構内にあるスタンドである。ヴァイスブルストといっていたと思うが、白いソーセージにパン一個付き。senfというマスタードが美味。ビール一杯つけてこれで昼食になる。日本の立ち食いそば感覚で気に入っていた。

 

ドイツつい(2011)  前に戻る  トップページに戻る