カイロの男達(その5)

 

(以下の文章は大分以前に書いたもの。脚色は無く、旅日記を再構成しています)

 

5。ギザにて

 

ギザのピラミッドは、エジプトの中でも有数の観光地である。タハリールから乗った乗り合いタクシーは、ピラミッドの少し手前で地元の乗客が皆降りて僕ひとりになると、さっそく、ピラミッドまで行くならあと1ポンドとここまで十数キロ来たその4倍の料金をふっかけてくる。すぐにこれである。“バカ言え”と言って降りて歩いて行く。ピラミッドから1キロ離れているが、もう物売りやらくだ引き、ガイドが声をかけてくる。この手の連中は結構しつこいのでうんざりさせられるが、タンジールの自称ガイドに較べるとここの人達はそうひどくない。ノー、と言って通りすぎてもしばらくはついてくるが、こちらも立ち止まって、もう一度はっきりノーといって歩き出すと、大体あきらめるようである。それでも僕の後ろで、半ば泣き声のような声で、“何で俺に値段を聞かないんだ”“たった1ポンドだよ1ポンド”“オーイ、この品物を見てくれよォ”といつまでも叫んでいるのを背中で聞いていると、芝居がかった大げさな言い方に吹き出してしまう。観光客相手にぼろうとする連中も、ここでは善人エジプト人の気質が見えかくれする。

 

うるさい連中から逃げるようにして歩いていたら道に迷ってしまって、またまた地元の人に助けてもらった。エジプト独特の丸いパンをモグモグ食べながらやって来た20才位の男である。英語をしゃべらず、そのまま歩いていくので、こりゃ駄目かな、と思いながらついていくと十字路に来て、こっちだという風な仕草をしてまた歩いていく。道が上りになって、ピラミッドが近いことが知れる。らくだ引きが“こっちが近道だ”などといいながら連れて行こうとするが、無視してモグモグ兄さんについていく。中にはモグモグ兄さんをつかまえて何か言うのがいる。エジプト語なので分からないが、“商売の邪魔をするな、案内なら俺がやる”とでも言っているのだろう。困ったようにこちらを見るので、その度にノーと言ってやると、兄さんはまた歩き出す。ゆるいカーブをまがると目の前にピラミッドが二つ巨大な姿を現した。兄さんは、あれがピラミッドだというようなことを言い、くるりと振り返って今来た道をスタスタ下りて行った。礼を言う暇もなかった。

 

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定番中の定番 カフラー王のピラミッドとスフィンクス

 

 

 

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