カイロの男達(その6)

 

(以下の文章は大分以前に書いたもの。脚色は無く、旅日記を再構成しています)

 

5。再びカイロへ

 

ルクソールから夜行列車でカイロに向かった。ルクソールを深夜出て丸半日、正午を回って列車は運河に沿って走っている。夜が明けてからまるで変らぬ風景が続いている。狭く、空気の汚れた車内にいるのがしんどくなって、デッキへ行った。幅が日本の列車の一倍半程あるドアは開け放たれていて、乾いた暖かい風が吹き付けてくる。降りる駅が近づいたのか4,5人の黒人がどやどやとデッキに出てきた。きいてみると、スーダンから来たという。カイロの南数十キロの小さな町の大学に留学するのだそうで、列車がスピードをゆるめる度に、ちがうちがうこの町じゃない、などと言い合っている。その中の一人が僕にむかって“エジプトはいい所だろう”“ウンウン皆親切でいい人たちだ”そう答えながら、明日この国を去る僕はエジプトで会ったいろいろな男たちの顔を思い出していた。親切であることは間違いないが、日本語や英語でいう親切とは少し違うような気がした。親切エジプト人は俺は俺、お前はお前で、お互いの人格を認めつつ、博愛主義的親切を発揮するヨーロッパ人とは違う。その点では何やらエジプト全体でひとつの家族のようにお互い仲の良いエジプト人は、相手が自分と同質の人間であることを期待する日本人に近いのかもしれない。しかし絶対的親切というか、あの確信に満ちた顔付きは、行動や考え方が人からどうみられているかということに容易に左右される日本人では持ち得ないものである。歴史なのか土地なのか民族なのか分からないが、あれはもうそういう風に人間が出来ているとしか言いようがない。

 

スーダンの学生が僕が持ってたマイルドセブンライトを珍しそうに見るので一本ずつ分けてあげた。と、それまで黙って我々の傍に立っていた太ったエジプト人のオッサンが、何やらエジプト語を言いながら僕の煙草を箱ごと取り上げ、自分のポケットにしまいこみ、代わりにクレオパトラというこの国の人気煙草を僕に渡してよこし、ニッと笑った。遠くサッカラの階段状ピラミッドが見えてきた。列車は混乱と喧騒の町カイロに近づきつつあった。 (おわり)

 

 

サッカラの階段状ピラミッド

 

 

 

 

イスラミックホテル(カイロ)のフロント

 

 

 

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