カイロの男達(その4)

 

(以下の文章は大分以前に書いたもの。脚色は無く、旅日記を再構成しています)

 

4。タハリール広場にて

ニューカイロのミダン・エル・タハリールは常時数十台のバスやミニバス、それにタクシーが発着する巨大な広場である。多量の人と車の混乱振りはカイロの象徴のようなところである。ここで慣れぬ旅行者は、いかに目当てのバスに乗るか苦労することになる。バスはあちこちで次から次へと発車しているのだが、どこで待ったらいいものやら、またそれが解ってもバスの行き先や系統番号がアラビア語で書かれているので途方に暮れる。70と書いてあるのは70ではなく、65だというのだからかなわない。大体、来るバス来るバス人でギッシリで、はみ出て手すりにぶら下がっている奴もいる。止まらぬうちにワッと飛び降り、乗ろうとする連中ともみ合い、走り出しても尚何人も飛びおり、また元と同じギッシリの状態になって、どうにか出発していく。異邦人は喧騒と混乱の中、ア然として立ちつくしている。

 

そこで登場するのが親切エジプト人である。いかにエジプト人が親切かということは、ここで自分のバスを尋ねれば良く解る。たとえ英語が解らなくても、ついて来いという仕草をし、車の洪水を横切るのに手を貸してくれ、あちらの乗り場で尋ね、こちらで尋ね、それでも解らないでいると、たいてい“俺も手伝おう”という男がもうひとりふたり現れ、それぞれ自分の予定が遅れるのもおかまいなしに、驚くべきことに僕がちゃんと目当てのバスに乗り込む迄見届けてくれる。

 

ホッサム君という男もそうであった。立派な体格でヒゲも薄く生やしているが、多分高校生ぐらいと思う。このホッサム君僕が乗るカイロ旧空港行きのバスを15分ほど一緒に待っていてくれた。学校へ行く途中とみえて英語の教科書を持っていた。僕はこの日ルクソールへ行くところであったが、ホッサム君は自分の家の住所と行き方をエジプト語、英語の両方で書いて、カイロに戻ってきたら是非遊びに来てくれと言う。バス乗り場を聞いただけでこういう展開になるところがおもしろい。“きっとだよ”というホッサム君の無邪気な笑顔が印象に残る。

 

 

イスラムカイロにて

 

 

 

ナイル川とニューカイロ

 

カイロも遠景なら静かなもの。残念ながら混乱と喧騒のタハリール広場の写真は残っていない。

 

 

 

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