水の都
(データ:1983年12月ほか)
◇水の都 これは最も使い古された形容句だと思うのだが、実際に聖マルコ広場に立つと、海抜ゼロメートルを実感する。へらでならしたような、海面と同じ高さのまっ平らな土地に無数の運河が迷路の如く張り巡らされ、4階建て、5階建ての石造りの建物がびっしり建ち並ぶ。 どういうメカニズムになっているのか、冠水した聖マルコ広場に板を差し渡し、観光客が列になって渡っていく光景は決まって冬場のニュースである。ベネツイアは沈みつつあるというが、万が一にもそういうことがあってはならぬヨーロッパの宝である。 超人気都市であり、観光情報はガイドブックに詳しいのでここでは若干のコメントなど。 ◇霧の都 私は‘84年の正月と‘92年の正月とをここベネツィアで迎えた。冬のベネツィアはしばしば深い霧に閉ざされた。ひどい時は、5〜10メートル先も定かでなく、橋の上に立って川面が見えないぐらいであった。歩いていると霧の中から人影が現れる。ただでさえドラマティックな舞台装置を持つ町のことであるから、まるで映画の中のワンシーンに紛れ込んだかのようであった。冬のイタリアは雨も多いし、夏の輝きが恋しいのであるが、霧のベネツィアにも捨てがたい魅力がある。 ◇迷路歩き 良く知られていることだが、ベネツィアに車を乗り入れることは出来ない。そもそも主要な交通手段は舟である。無数の運河は他の町の道に相当し、伝統的な建物は運河に面して玄関を持っている。こうした中で、道は補佐的な役割に回されて、あちらこちらへとねじまがり、場所によってはすれ違うのに肩が触れるほど狭い。全体として巨大迷路を作っているのである。私は方向感覚に自信がある方なのだが、考えているのと180度反対の方向に向かっている自分を発見して愕然とすること一度や二度ではなかった。 尚、急いでいる時など迷いたくない場合、街角にところどころ貼られた“Per San Marco”(聖マルコ広場方面)などのプレート表示に従えば良い。(Perは英語のforにあたる) ◇宿について 列車はベネツィア=メストレ駅を出ると両側に海を見ながら走る。ベネツィアへの期待を否が応でも高めてくれるアプローチである。感嘆しているうちに列車はベネツィア=サンタルチアに到着する。この瞬間は現実に戻っていなければならない。同じ列車に乗ってきたバックパッカー達による部屋とり競争、よいーどんのいっせいスタートである。駅前から左手に延びるエスパーニャ通り周辺が安宿街。 観光で生きている町であるから、ホテルは沢山ある。しかしほっといても人が押し寄せる町でもあり、条件は良くない。出来れば夜行列車で、朝ベネツィア入りするのが安全である。 同じことはレストランにもいえて、見た感じ観光客相手のいい加減な店が多いように思われた。土産物屋など論外である。 海中から突き出る杭もベネツィア光景の一つ 棒飴のようなカラフルなものも印象に残る |
霧に沈む町 霧が濃いともっとドラマティックな感じ になるのだが写真に撮れないのが残念 洗濯物も風景の一部 運河に面して出入り口がある リアルトの魚河岸 生活者の一面も |